水平線

研究と批評.

『REVOLUTION +1』(足立正生)②

暴力は国際関係においてしだいに疑わしくて確実とはいえない道具になってきたが、国内問題では、とくに革命においては、評判と魅力を獲得するにいたっている。新左翼の強烈なマルクス主義的レトリックは、毛沢東が宣言した「権力は銃身から生じる」というま…

『REVOLUTION +1』(足立正生)①

ドゥルーズは、革命について歴史的反省を繰り返す知識人を罵倒していた。レーニンの秘密文書がどうの、レーニン主義の政党がどうの、前衛主義や代行主義がどうの、革命的暴力の暴走がどうの、反省したい者はいつまでもやっているがいい。しかし、銘記すべき…

『PLAN75』(早川千絵)

崩壊の過程としての生を肯定すること、それは何よりも「老いてあること」或いは「老いつつあること」を肯定するに他ならない。言うまでもなく、「老い」とは可視的な、そして内在的な経験としてある不可避な崩壊の過程そのものだからである。「老い」は死へ…

『すずめの戸締まり』(新海誠)

国民が家父長的部族として表象されるのでもなく、また民主制とか貴族制とかいった形式が可能であるような未発達の状態にあるものとして表象されるのでもなく、そうかといってまた、有機的組織を欠いたでたらめの状態にあるものとして表象されるものでもなく…

『草の響き』(斎藤久志)

人間を狂った生物とする考え方がある。実際、有機体が、確定的な生の方向=意味に従って、プログラムされたコースを歩んでいくとすれば、方向=意味の過剰を自然史的アプリオリとする人間は、放っておけばどちらを向いて走り出すかわからない、大変厄介な存…

黄昏の水面ーー1-3-5、あるいは4-1-3の紙片

人間的な遊び=賭けにおける仮定は、〈善〉と〈悪〉に関するものであり、その遊び=賭けは、道徳性の学習である。そうした悪しき遊びのモデルは……パスカルの賭けである……神的な遊び=賭けはそれとはまったく異なっており……わたしたちにとってはもっとも理解…

『三度目の、正直』(野原位)

幾千もの声をもつ多様なものの全体のためのただひとつの同じ声、すべての水滴のためのただひとつの同じ《大洋》、すべての存在者のための《存在》のただひとつのどよめき。それぞれの存在者のために、それぞれの水滴のために、そしてそれぞれの声のなかで、…

『ニトラム/ NITRAM』(ジャスティン・カーゼル)

「でも、気がくるっている人のところには行きたくないです」とアリス。 「そりゃあ、しょうがないだろう」とネコ。「ここじゃあ、みんな気がくるってるんだ。おれもくるっている。君もくるっている。」 「どうしてわたしがくるっているってわかるんです?」…

〈共〉は革命的たりえるか ③

レントとは本来、地代や不労所得を意味する概念である。マルクスは、『資本論』において生産過程の内部で生産された価値を生産過程の外部から収奪する仕組み、すなわち地代について記している。マルクスは『資本論』最終章「諸階級」において次のように記し…

〈共〉は革命的たりえるか ②

ネグリ/ハートは私的/公的ではなく、私的/公的の外部に存在する〈共〉こそがコミュニズムを実現すると幾度も指摘している。〈共〉には、エコロジー的〈共〉と生政治的〈共〉があったが、ネグリ/ハートは生政治的な〈共〉を中心に論じている。ネグリ/ハートの…

〈共〉は革命的たりえるか ①

政治経済学において「所有」概念は、中心的位置を占めている。冷戦崩壊以降、既成社会主義国家の崩壊によってマルクス主義は失墜し、効力を失った。そしてソ連や中国のような中央集権的な国家的所有の限界を明らかにした。そしてグローバル資本主義の支配は…

言葉と身体の臨界ーー濱口竜介論序説 ③

言葉とは身体であり、身体とは言葉である。自己と他者が内面に所有する言葉が、「声」として発せられると、そこには意味に還元することのできない余剰を孕み持つ。そのような「生の声」は、「言語の物質性」として存在論的次元を現前し、そのような言葉によ…

言葉と身体の臨界ーー濱口竜介論序説 ②

濱口竜介の作品は、身体と言葉の随伴性を基軸に据えなければ作品を解釈することはできない。まずは、濱口作品における身体性から確認していくことにしよう。 『ハッピーアワー』(2015)は、「重力」=他者関係の変化が、自己の変化と並行する。「重心」を生…

言葉と身体の臨界ーー濱口竜介論序説 ①

我々の世界は映画である。我々は映画としての世界に住み着いている。いや、正確に言わねばならない。映画の登場人物たちはその映画の中に住み着いているのではなく、取り囲まれ、貫かれ、配置され、話させられ、見させられるものとして取り込まれている。我…

『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介)

濱口竜介の作品は、いつも物語の「先」、あるいはその「外部」を求めてしまう。『ハッピーアワー』(2015)のラストが、神戸を旅立った純(川村りら)を乗せた船が水平線を航海しているショットで終わるのであれば、『寝ても覚めても』(2018)は、丸子亮平…

『キャラクター』②(永井聡)

「お前は、狂っている」と客体を名指しするとき、名指しをした主体が理性的存在であるという根拠は一体何だろうか。われわれは、他者を「狂気」と定義することのできる言語の狂気性こそを問われなければならないのではないか。あるいは理性的言語を駆使する…

『キャラクター』①(永井聡) 

リアリズムが作品のどこかに表象されることによっての経験がリアリティを与えるのか。あるいは、フィクション内におけるリアリズムが、現実世界の「リアリズム」を形成しているのか。このような問いは、あまりに馬鹿げていると、あるいはそのような問いは成…

『きみが死んだあとで』(代島治彦)

地獄への道が善意で敷き詰められているなら、悪意で敷き詰めないと天国への道は開かれないのかもしれない。しかし、この世界は、天国でも地獄でもない。煉獄である。この世界では、地獄への道と天国への道は反転可能になっている。この世界は、悪を活用して…

『狼をさがして』(キム・ミレ)

かつて〈東アジア反日武装戦線〉(以下、「狼」)が、「虹作戦」(昭和天皇が乗った列車の爆破計画)を決行するはずであった鉄橋が幾度も表象される。だが、鉄橋の彼方は霞んで何も見えない。決して「狼」は、やってこない。「狼」は、絶滅したのだ。だが「…

『花束みたいな恋をした』(監督:土井裕泰・脚本:坂本裕二)

終電を逃さなかったら出逢わなかった「かもしれない」ーー。「かもしれない」という複数の可能世界には、新自由主義による中間的な社会領域の喪失が、個人的領域と他者的領域の両者を媒介なく接続されることでリアリティを与える。そして、さらにこの可能世…

『れいわ一揆』(原一男)

2019年の参議院選挙での、れいわ新選組の躍進は神風が吹いているのではないかと「誤認」させるほどの瞬間風速であった。それは、まさに「れいわ旋風」であり、一定数の市民を熱狂させることに成功したと言えるだろう。 しかし、成熟した秩序ある中間団体なき…

『空に住む』(青山真治)

青山真治の作品は、『Helpless』・『EUREKA ユリイカ』・『サッド ヴァケイション』の”北九州三部作”や『共喰い』、あるいは『チンピラ』や『WiLd LIFe』におけるヤクザとの闘争に巻き込まれることに象徴的なように「土着性」、「血縁」がどこまでも回帰する…

『スパイの妻』(黒沢清)

黒沢清の映画では、たびたび内面の「空白性」が描かれている。福原優作(高橋一生)と聡子(蒼井優)の関係性においてもその萌芽は見て取れる。だが、この「空白性」から生じる「言語化不可能」、「理解不能」という解釈こそ黒沢映画の特徴でもあるだろう。…

『カリスマ』(黒沢清)

冒頭の徹夜続きの警察官である藪池(役所広司)の風姿がこの社会の「法則」を物語っているかのようだ。われわれは「労働力の所持者」(マルクス)であれ、労働の形式的従属・包摂は実質的に転化し「賃労働者がその固有性ー属性を失いつつある」(沖公祐)の…

『アカルイミライ』(黒沢清)

皮肉なタイトルだ。「アカルイミライ」が将来待っているはずだと心底から信じることなど可能だろうか。それは、あまりにニヒリストだと批判するかもしれない。だが、オプティミズムに信仰することがそれ以上にニヒリズム的であり、「再帰的無能感」に苛まれ…

微光

6一2の証明が4であることよりも 僕にはそれがネギを切り刻み続けるような 言葉の物質性が憂懼だった もしも世界が嘘だけで飾り付けられているなら 祈りは対等になる 夢が嘘に遭逢することがあれば 嘘は祈りとなるだろう 風葬されそうな言葉を肺の水底に着飾…

『寝ても覚めても』(濱口竜介)

甘美でどこか頽廃的な美しい夢。人は誰しも忘れることのできない恋愛を経験している。罪の意識から新たな恋愛ができない人、過去の恋愛を忘れ去るために順次と恋愛に励む人。そこには無数の物語が存在する。だが、それらの経験は過去の記憶における中心的事…

ツイッター・デモ、あるいは催涙ガス

どうやらツイッター・デモに人民は、賭けたようだ。事の経過は、国会で審議が開始した検察庁法改正案への抗議であるらしい。「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグが、現時点でTwitterという表象空間に470万件以上(5.11時点)ツイートされて…

大義を求めよーーパンデミック、資本、階級

「ウイルスの独白」(https://hapaxxxx.blogspot.com/2020/03/blog-post_30.html?spref=tw&m=1)によると、ウイルスとは「生の連続体」であり「知性」を内在した「救世主」である。続けてこう語る。「わたしのおかげで、みなさまは経済をとるか生きるかとい…

災厄の理想郷ーー「災害ユートピア」と市民社会の臨界

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染・拡大が止まらない。中国を発現とし、世界的に拡大し続け、様々な影響が出ていることは周知の事実だ。国内においてもマスクの品薄、そして卒業式や入学式、大規模なイベントやライブの自粛を求めるよう政府は声明を出…