スーパーに並んだ無数の自転車も僕のだけはなんだか一人ぼっちだ。交感もしない無機質な〈もの〉に生成できるならどれだけ幸福なのだろう。美しくも陰鬱な言葉を覚えてしまったから、僕は、あなたを傷つけてしまう。
群青に浮かぶ真っ白な雲が僕を洗い流しそうだから、陰鬱な真夜中の静寂を歩く。世界は沈黙し、濃霧のように乾いた冷たい空気が僕を優しく包み込む。真夜中が言葉をかき消す。孤独から逃れるために「孤独」を掴み取ろうとした。だが、世界は僕を逃してくれない。存在の否定の残余が空虚を埋め尽くす。
不意に星を掴んでみた。星を食べると、何だか懐かしい味がした。僕は一体どこで生まれたのだろう。歩くたびに滴り落ちる痛苦が僕の実存を確認させてくれる。
真夜中の海。波打際の砂の表情が、日々の没落と腐敗物を洗い流す。
水平線は、完璧な美しさを形象し現前する。
雨ーー。
雨は、僕の肉体から体温を奪っていく。汚辱に塗れた生。雨の匂いだけが僕を救ってくれそうで、つい笑みを零してしまう。
孤独の影を射影する前の鬱蒼とした帰途。僕は、水平線のような美しさにはなれないけれど、水平線の彼方には何だか辿り着けるような気がした。